極北バレンタイン-真夜中版

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   数年に一度の大雪だそうだ。  折角好意で車で送ってもらったものの、大渋滞につかまり、抜け出した脇道で下ろしてもらった。  刃はマフラーを巻き直し、コートの釦を襟元までかける。  ひとり歩く彼女は、白い息を吐いて、運転手の帰りを心配していた。  もはや宥めすかす勢いで車を止めさせたが、戻る先も渋滞で雪道だろうに。もしや車中泊にしてしまっただろうか。 「テンチョにゃ悪いことしたなぁ…」  呟くが、今更だ。  馴染みのカフェへは、顔を出しに行っただけのはず。  が、手製料理を振る舞われ、時節に合わせたチョコレートケーキまでいただいてしまった。勿論どれも絶品だ。  それで送ってもらった挙句にこの足止めとなると、不義理も極まった気がする。  しかしとりあえず。  テールランプを見送った今は、ひとの心配よりも自分のことだ。  歩いていく傍の幹線道路は、どこまでも渋滞。立ち寄った駅でも、電車のダイヤが乱れているらしく人だらけ。  おかげで帰りの新幹線も、終電を逃してしまった。  白い歩道を、ブーツのつま先で蹴散らしてみる。風に散る新雪は、たいした量ではない。 「これっくらいの雪で、どうなってんだここの首都はよゥ」  降り続く雪の中でぼやくが、言ったところでどうしようもない。数センチの積雪で、交通機関はかんたんに麻痺する。  始発まで、まだずいぶんと時間がある。とりあえずどこかで暖まろうと歩く。  幸い都会の繁華街。不慣れな場所だが迷うことも無いだろうと、明かりをたどる。  ほどなく路地へ居酒屋を見つけ、足早に向かった。  
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