9人が本棚に入れています
本棚に追加
*****
冷気に気付いて、目を開ける。
ひんやりと涼しい誰かへ、もたれて眠っていたようだ。視界の端へ、白銀の毛先が見えた。
「……果心堂さん?」
旧友かと、ぼんやりと呟く。心配してやって来たのだろうか。今日は来るようにはなっていなかったと思うけれど。
しかし、あわく薔薇の香が鼻先をくすぐり、見上げて息をのむ。
「貴方は……!」
ゆったりと満足げに笑む白皙は、見知った人物。
陶器のように白い肌。長いまつげは扇のようで、唇は昏いルージュの色に艶めいている。蠱惑的な整った顔。それを彩る、白銀のゆるやかな巻き毛。
死神。
板壁を背に座る彼に、後ろから腕をまわされていた。
「久しいな」
過分な色香を纏って、死神は目を細める。間近に聞く深い声は、ひどく優しい。だが腕はゆるめられず、むしろ抱き竦められた。
「安泰で何よりだ」
状況に、唐突な事に、ただ戸惑う。
「どうして、こんなところへ?」
尋ねてみるが、首もとへ顔を寄せた死神は、くすくすと笑うばかりだ。
「……お前は良い香がするな」
最初のコメントを投稿しよう!