第1章

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テストをバンジージャンプに例えようと思う。 中学に上がって二年と少し。感じたことだった。  何が言いたいかっていうと、結果が出るまでが一番怖いし苦しいってこと。  きっとこの先にはとんでもない絶望が待っている。  二度と立ち直れないような、恐ろしい恐ろしい未来が待っている。  際限ない暗い想像にずっと身体を浸してないといけないのだ。でも、どうだ。実際に飛び下りてしまえば、苦痛なんて感じる暇はないし、終わってしまえば呆気ない。 「なんだ、こんなもんだ」  自分の狼狽ぶりに呆れすらしながら、解答用紙を眺めているのがいつものことだ。  そんなことを言ったら、アイツは間違いなく「お前はもうちょっと気にしろ」と怒るのだろうけど。別に、赤点ってわけでもないんだからいいだろ? ――――そういうわけで、俺は今日、こうして普段の一時間も早く学校に到着したというわけだ。逸る気持ちも理解してほしい。水中で息を止めているみたいな、苦しいだけの時間はもういらない。  夏休みの前に立ち塞がる期末試験。その一日目。 7月1日。雲一つない青空。がむしゃらに鳴く蝉。眩しく輝くアスファルト。  下駄箱についたあたりからもう我慢できなくなっていた。 背中に張り付いた制服の気持ち悪さも、暑さでぼうっとした頭も、粘っこい唾が舌に纏わりつく感覚も、不自然に早鐘を打つ心臓も。  どうだってよくなっていた。俺は走っていた。上履きがパタパタ鳴った。教室の、引き戸を思いきり開けた。
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