Prologue

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そのトランクケースを持ち上げ、彼はヘベルハスに向けて言う。 「少し言葉に気をつけたほうがいいですよ。そこの腰の引けた新兵が寿命を縮めかねません」 「こ、ここここ腰が引けてなんて…いますけど…でも部隊長の言うことは正しいと思います!!」 「遅かったか…」 「リウノ!お前はちゃんとわかってくれるんだな?!」 「はい!部隊長!騎士たるもの、いついかなる時も正々堂々と、ですよね!」 「そう!その通り!お前はやっぱり俺の部下だ!よし、飲みに行くぞ!俺の武勇伝を聞かせてやる!」 「部隊長、作戦の報告が終わってからにして下さい」 「え、やっといてよ」 「権限がありません」 「譲渡」 「却下」 「けちけちすんなよー…」 「騎士が仕事を投げ出してよろしいので?」 「良くないな!良し、飲みは仕事が終わってからだ!」 「はい!部隊長!」 男、リチウム・ロートスはもう一度大きくため息を吐いた。しかしこれでも上司なのだ、受け止める他ない。それに、仕事自体はキッチリやってくれるし、時には部下の面倒もしっかり見てくれる。 もう一つ付け加えるならば、彼は、ヘベルハスは部隊長にいるような階級ではない。中尉にもなれば、現場から離れ、後ろの方で指揮を取るのが一般的、且つ当然の立場だ。それでも彼が前線に立っているのは、こうやって自らの騎士のあり方を後世に伝える為でもあるのだろう。 それがどんなに古風で、どんなに不合理な事であったとしても、それは必要な事だ。その心構えがあってこそ、合理的な判断をすることができる。不合理や理不尽を知る事で、合理的で、理に適った選択を選ぶことが出来る。 ロートスはそう考えている。 彼も、本来なら後方支援の役割を担っている。今ここにいるのはこのモニターを映すためで、他意はない。 といえば嘘になる。 (黒騎士…見れなかったか…) カメラを持っていたのが黒騎士だとは露知らず、彼は少し落胆しながら本来の持ち場に帰った。 その後、爆弾を全て処理し、首領を含め、主犯メンバーは全て逮捕(首領は気絶だったらしい)、余罪も判明し起訴された。
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