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「御影君、いるかい?」
不意に扉がノックされ、恰幅の良い中年男性が顔を出した。
温和な印象を受ける細い瞳があたりを見渡し、麗華の姿を見つける。
「やっぱりここにいたのか」
「松田教授、何か用かな?」
「いつも思うんだが、君は生徒だよね? なぜ上から目線なの?」
「人間の上下関係は格で決まるものだよ。松田教授」
「……あれ、私って格下だっけ?」
「気にしないでくれ。それで? 用件は?」
「まあ、いいか。卒業生の卒論がひとつ足りな……って、やっぱり君の仕業だったか」
東京帝王大学心理学部教授、松田弘樹〈マツダヒロキ〉。
麗華の指導者であり、僕の元担当医師だ。
「あ、三鷹君もいたんだね。最近どう?」
「相変わらずです」
「……そうか。御影君は優秀だから、きっと良くなるさ」
「……はい」
松田教授は笑って僕の肩を叩き、麗華から卒論を受け取って部屋を後にした。
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