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麗華からぞんざいに扱われているが、松田教授は心理学会ではかなり有名だ。
事実、発狂していた僕を落ち着かせ、日常生活へ復帰させたのが彼だ。
後に麗華が大学生となり、更なる治療を僕へ施した。
日中はあまりに人の目が多く、また目撃する事案も多いので行動を制限されているが、夜間に働ける分だけありがたかった。
松田教授と麗華を比べてみると、彼女の方が特別に優れているわけではない。
心の治療には信頼関係もおおいに影響していて、松田教授を僕は信頼できているが、幼少からそばにいた麗華に一日の長があったのだ。
「もう少し敬ってもいいんじゃない?」
僕が笑いながらそう言うと、麗華は両肩を竦めてみせた。
「ははっ。尊敬はしているよ。さっきのは冗談さ。私と教授はこういう間柄というだけさ」
「そういうもの?」
「そういうものさ」
そんなやり取りをしていると、松田教授が忘れ物でもしたのか、再び研究室へ顔を出した。
「あ、そうそう。訊き忘れた」
「ん? どうしたんだい? 教授」
「君達さ、レイニー・クラウンって知ってる?」
「何ですか? それ」
「いや、知らないなら結構だ」
教授はレイニー・クラウンなる存在を訊ねてきたが、僕達が知らないと分かると、忘れてほしいと言いたげに愛想笑いをした。
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