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「まだニュースにはなっていないんだけどね。先日、それに一週間前、男性と女性がそれぞれ路上で首を怪我している。
凶器は道端にあったガラス瓶の破片に、錆びついたカッターナイフ。どちらも捨てられていた物らしい」
「それは……痴情のもつれとか、通り魔の犯行じゃないのかい?」
「うーん、被害者はどちらも突然雨が降ってきて、背丈二メートルほどのピエロが現れたって証言したんだ」
「なるほど。それで精神異常をきたしてないかと教授へ相談がきたんだね」
「ひらたく言えばそうだね。事件のあった二日とも晴天だったし」
「オカルトの可能性も否定できないがね」
「可能性って観点ならね。現実的ではないけど」
「ふぁ……」
話の腰を折ったのは、僕の盛大な欠伸であった。
麗華に呼ばれて馳せ参上し、早くも二時間が経とうとしていた。
「あ、ごめん。でも、僕は眠たいしそろそろ帰るよ」
「……そうか。気を付けて帰るんだぞ?」
麗華は僕が帰ると口にすると、一抹の寂しさを抱いたらしい。
教授の存在など、どこ吹く風といった様子で僕の胸に飛び込み、胸元を両手で強く握りしめた。
ちらりと教授へ視線を移すと、まるで音の出ていない口笛を吹きつつ、あさっての方向へ視線を向けている。
なるほど。確かに三文芝居だ。
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