プロローグ

3/5
前へ
/107ページ
次へ
「あっ……ああっ……」  僕の年齢は四歳を迎えたばかり。 人と比べて少しだけ頭の発達はよかったけれど、まだまだ世間知らずだった。 今、自分の置かれている状況がとてつもなく危険であると、気付けないほどに。 ごそり、と、背後から物音がした。 本能が恐怖を抱いたのか、じわりと背中に汗がにじむ。 振り返ってはいけない、と、僕は念仏のように胸の内で唱え続けた。 だが、運命は見過ごしてくれなかった。 「子ども……か……」 声と、床板を踏みしめた音が同時に耳へ届く。 逃げなければならないとわかっているが、恐怖の鎖が僕の足をとらえて離さない。 やがて足音は止まり、僕の首筋へ鉛色の刃がそえられた。 あとほんの少し力を加えれば、細首などいとも簡単に切り裂いてしまうだろう。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加