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「えぇ、やだってぇ、オレ、そんなんやらないってぇ」
隼人がめちゃくちゃ照れながら、にんまり笑ってる。
結婚式当日、指輪を運ぶリングボーイをやれと言われて、まんざらでもないって顔をしてた。
大人全員におだてられて、コロコロ掌で見事に転がされてる小学生。
居間で披露されるそのほのぼのとした光景をキッチンから眺めてた。
この家族のペースに合わせて飲んでたら、即潰れるから、巻き込まれないよう少し離れたところから、たまに会話に混ざりつつ、つまみを追加で作っていく。
やっぱ酒豪一家だな。
ボトル、いくつ開けたんだ?
一、二、三……ひとり一本ずつは空けてるだろ。
ってことは、もうそろそろ酒が切れる頃だ。
皆が楽しそうに酔っ払ってるから、そっと抜け出して酒買いに行ってこよう。
夕方行ったスーパーはまだ閉店してない。
楽しそうな宴会に水を差さないよう、何気なく外へと抜け出した。
「あ……」
玄関を開けてすぐ、煙草の匂いが鼻を掠めた。
「買い出し?」
実さんの旦那さんが外で煙草を吸ってる。
犬井家全員煙草ダメだもんな。
「あー、はい。酒、なくなるかなぁって。何か買って来ましょうか?」
「ありがとう。大丈夫だよ」
実さんはさ、誠の姉貴だから俺達のことに理解があるかもしれない。
あの両親の元で一緒に育ってきたんだし、すげぇ似てるから、男同士とかを飛び越えて考えそう。
でも、この人はさ、また別だ。
「拓海君?」
「……ビビりました? 誠と俺のこと」
「……」
懐かしいな煙草の匂い。
今、周りで吸ってる奴がいねぇから、こんなに煙たかったっけ? って不思議なくらい目立つ匂いだ。
ホストの頃は気にしてなかった匂い。
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