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「まぁ、びっくりはした、かなぁ。誠君が? とは思ったけど」
俺と知り合う前の誠を知ってるんだもんな。
義理の弟が突然男と結婚するっていう話になれば、びっくりするだろ。
複雑な部分もあるんじゃねぇ? と、思ったりもする。
レスキュー隊員だろ? めちゃくちゃ男社会のしかも体育会系だから、余計にそういうのがさ。異性の実さんとは感覚違うだろうし。
同性、男同士での恋愛に関して、同じ男の立場だと考える部分はあるはずだ。
自分だって、そういう恋愛の対象に含まれるんじゃ、とか思うことだって。
「でも、なんつうかなぁ、お似合いだったからな」
「……」
「俺は実も、この家族全員の懐の深さが好きなんだよ。すげぇなぁって思うところがいくつもある。実って、あんなにちっこくて華奢そうに見えるのにさ、でかいんだよなぁ。強ぇんだ。俺より強い。んで、一目惚れしたんだ。実にも、この家族にも」
「あっ! それ、すっげぇわかります!」
「アハハ、誠君もどでかいもんなぁ」
タッパだけじゃなく、横幅もあるお義兄さんがアハハと笑うと、煙草の煙も楽しげに揺れながら、夜空に消えていく。
「まぁ、だから、びっくりはしたけど、お似合いだから、それでいいんじゃねぇか? でも、君のご家族は? 猛反対した?」
「全然っすよ」
「へぇ、寛大だなぁ」
ですよねって笑った。
「じゃ、皆、犬井家にベタ惚れしてる仲間みたいなもん、だな」
煙草を携帯灰皿に押し付けてから、まだ漂ってる煙を手で払ってる。
すぐに家の中には戻れないから、自分が代わりに買い物に行ってこようって言ってくれたけど、それを断って歩き始めた。
この道を誠が毎日飛び出すように走ってたんだなぁって、ここに来る度に思う。
俺の知らない誠が見た風景をなぞるように散歩するのが気に入ってるから。
「半袖、さみぃな」
家の中はぬくもりだらけで温かかったから、そのままの格好で出てきたけど、外は案外寒かった。遠くからでも海風がここまで届くのか、俺らが住んでるところよりも風が冷たい。
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