第9章 奇跡の人

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そう、男女の結婚で反対されるってよっぽどの問題がある。 借金とか、バツがくっついてるとか、歳がすっげぇ離れてるとか。 でも同性だと歓迎するってことがすでに「寛大」ってなる。 それが普通だと俺も思うよ。 でも、俺と誠の間ではそんな「寛大」な出来事がすげぇ連発で起きるんだ。 どっちの親にも歓迎されて、結婚式に笑顔で出席してもらえるって、すげぇ「寛大」で、すげぇことだと思うよ。 でも、奇跡じゃない。 「たーくみぃぃぃ!」 奇跡は誠だ。 誰も歩いていない道に笑えるくらい、酔っ払いおまわりさんの声が響き渡ってる。 すっげぇ、遠くから叫んでんな。 「もうっ! ひとりで買い物なんてズルいよ!」 「バカ、酔っ払い。走ると余計に酔いが回るぞ」 「酔ってますぅぇぇん」 どっちだよ。 飲酒の検問で絶対に一回は言われたことがあるだろう呂律の回っていない「酔ってません」を非番のおまわりさんが元気に叫んでる。 俺がいないって気が付いて慌て始めた誠の声は、煙草臭さが消えるまで外にいたお義兄さんにも丸聞こえだった。 追加の酒を買いに行ったよと教えてもらって、追いかけてきた誠の肩も髪も全力疾走の千鳥足のせいで乱れて弾んでる。 「またあの坂道上るんだけど?」 「平気だもーん! 僕、ここの坂を一気に自転車で」 はいはいって答えて、手を繋いだ。 酔っ払いの手はいつも以上にあったかくて、思わずぎゅっと力を込めて握ると、嬉しそうに笑ってる。 「リングボーイするってさ、隼人」 「そっか」 「その代わり、ハンバーグもメニューに加えてくれだって」 「りょーかい」 「それと、カレーチャーハンも」 「りょーかい」 「拓海、隼人には寛大だね。そしたら、僕もご飯リクエスト!」 「りょーかい……って、お前は食ってる暇ないだろ。花婿」 な、ホントに寛大だろ、お前の家族はさ。
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