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「あぁ」
あいつから連絡は来てねぇけど、大丈夫、そう誠に伝えるみたいにぎゅっと手を一瞬だけ握った。
まだ時間ならあるんだ。
親友の粕谷から連絡が来るのをもう少し待とうって、繋いだ手で伝えた。
「うわぁ、すごいね!」
指輪のことでふと沸き起こった不安が消し飛ぶくらい、衣装室の煌びやかさが眩しかった。
「いらっしゃいませ。どうぞ、中へ」
部屋にはタキシードがずらっと部屋の両サイドに並んでいる。
白から淡い色、茶色、黒ってグラデーションになっていた。
ふたりとも男だから、普段の倍、きっとここにはタキシードが並んでいるんだろうな。
「ね、ね! 拓海! 見てみて! これ! ピンクだって」
「あぁ」
誠がほっぺたを目の前にあるタキシードと同じ色に染めて、嬉しそうに笑っていた。
こういうのいいなぁなんて、思いながら、はしゃぐ誠を眺めてた。
花婿はきっと花嫁をこんな心境で眺めてるんだろうな。
こいつのこと、一生幸せにしたい
こんなふうに毎日笑っていて欲しいって。
「拓海っ!」
「うわぁっ!」
その笑顔が真っ直ぐ突進してきたかと思ったら、眉を吊り上げていきなり怒り始めた。
「拓海も選ぶんでしょっ? 早く! 一緒に選ぼうっ!」
「あ、あぁ」
「拓海はどんなのにする? 僕ね、このピンクのがいい! 拓海はきっと似合うと思うんだぁ、ピンク!」
それ、誠のほうが似合ってるだろ。
なんか、全身砂糖菓子でできてそうな甘い匂いがすげぇしそうだし。
「誠は?」
「んーっとねぇ、僕は、そうだなぁ」
「黒と白で合わせて、というのも素敵ですよ。こちらと、こちらで……たとえば、花などを一緒にしてしまえば。お花はどんな感じかお決まりですか?」
店員がパッと見繕ってくれた衣装を壁に並べて見せてくれる。
並んだ衣装の上に自分達の顔を乗っけてイメージするだけで、心臓がトクトク反応した。
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