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「ついにやっちゃったかぁ」
「あ?」
洋介が俺の眉間の皺を指差してる。
今日は誠が仕事だけど姉貴の家に呼ばれてた。リングボーイを隼人がやる。
んで、リングガールはもちろん眞子だ。その眞子に会いに行く。
「やっぱ、お前らでもそこは通過儀礼なんだなぁ」
「だから! 何がだよ!」
「結婚式準備中に喧嘩するカップル、ほぼ百パーセント。んで、その中でたまに別れちゃうカップルもぉ、イタッ! 運転中に肩パンすんなよ! あっぶねぇな」
お前がくだらないことを言うからだろ。
顔面じゃなかっただけでもありがたく思え。
「やっぱ指輪、平気じゃねぇじゃんか」
「……」
「男同士でサイズ測って、結婚指輪作るの、人目が気になったか? 衣装ん時だって少し緊張してただろ? お前ってたまに、すっげぇネガティブだもんな」
「……ちげぇよ」
たしかに男同士ってことで人目が気になった時もあった。
でも、そんなん最初だけだ。
誠と一緒にいたらそんなのすぐに消し飛んだ。
「そういうんじゃねぇよ」
「じゃあ?」
「お前さ……ホストしてた時のことどう思う?」
「え?」
俺はその時から何もかもが違ってる。
物の価値も、時間の感覚も、きっと味覚だって違う。
見るもの、触れるもの、全部が変わった。
金出せばいいじゃん、なんて思えなくなった。
「でも、あの指輪じゃなくちゃ、俺はそんなに変われてねぇってことなんだ」
「?」
あの写真じゃ伝わらない程度。
だから、それを確認したい。
誠とのことは全部を一歩一歩踏みしめていきたい。
あの長く続く坂を上るみたいに、自分の足で、自分の身体を使って、歩いていきたい。
「だから、喧嘩だろうが、誠が折れようが俺は折れるつもりはねぇよ」
「……」
結婚式場じゃなくたって、ホストクラブでだって挙式できるみたいに。
指輪なしでも愛は誓える。
神がいなくても、あいつだけを愛するって誓える。
誠が、茶髪でピアスくっつけてようが、俺の中身に惚れてくれたように、物じゃなくて、そこにある想いに価値があるんだ。
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