第13章 誓いの言葉

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「ついにやっちゃったかぁ」 「あ?」 洋介が俺の眉間の皺を指差してる。 今日は誠が仕事だけど姉貴の家に呼ばれてた。リングボーイを隼人がやる。 んで、リングガールはもちろん眞子だ。その眞子に会いに行く。 「やっぱ、お前らでもそこは通過儀礼なんだなぁ」 「だから! 何がだよ!」 「結婚式準備中に喧嘩するカップル、ほぼ百パーセント。んで、その中でたまに別れちゃうカップルもぉ、イタッ! 運転中に肩パンすんなよ! あっぶねぇな」 お前がくだらないことを言うからだろ。 顔面じゃなかっただけでもありがたく思え。 「やっぱ指輪、平気じゃねぇじゃんか」 「……」 「男同士でサイズ測って、結婚指輪作るの、人目が気になったか? 衣装ん時だって少し緊張してただろ? お前ってたまに、すっげぇネガティブだもんな」 「……ちげぇよ」 たしかに男同士ってことで人目が気になった時もあった。 でも、そんなん最初だけだ。 誠と一緒にいたらそんなのすぐに消し飛んだ。 「そういうんじゃねぇよ」 「じゃあ?」 「お前さ……ホストしてた時のことどう思う?」 「え?」 俺はその時から何もかもが違ってる。 物の価値も、時間の感覚も、きっと味覚だって違う。 見るもの、触れるもの、全部が変わった。 金出せばいいじゃん、なんて思えなくなった。 「でも、あの指輪じゃなくちゃ、俺はそんなに変われてねぇってことなんだ」 「?」 あの写真じゃ伝わらない程度。 だから、それを確認したい。 誠とのことは全部を一歩一歩踏みしめていきたい。 あの長く続く坂を上るみたいに、自分の足で、自分の身体を使って、歩いていきたい。 「だから、喧嘩だろうが、誠が折れようが俺は折れるつもりはねぇよ」 「……」 結婚式場じゃなくたって、ホストクラブでだって挙式できるみたいに。 指輪なしでも愛は誓える。 神がいなくても、あいつだけを愛するって誓える。 誠が、茶髪でピアスくっつけてようが、俺の中身に惚れてくれたように、物じゃなくて、そこにある想いに価値があるんだ。
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