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衣更着村(きさらぎむら)
長閑な田園風景が広がる田舎で私は生まれ育った。
人口の7割を老人が占める村で、娯楽施設などはなく、小学校も中学校も一つしかなくて子供の数も少なかった為が常に1クラスだった。
田舎というだけあって、ここの山には夕方入ってはいけないやら、この神社に入るときはまず井戸に礼をしろなどといった変な習わしがあったけどそれ以外は全くといっていいほど何も起きない平和な村だった。
小さい頃は、別になんともなかったが成長していくに連れて私はこの村の事をあまり好きにはなれなかった。
何もない、田舎の村。
それが、とてもつまらなくて卒業したら絶対に都会の学校に入学してやろうということだけが唯一の生き甲斐だった。
そう思っていた中学二年生の五月、いつもどおり学校から帰宅しているとこの村ではあまり見かけない引越しトラックが一軒の家に止まっていた。
近所の噂好きの爺さん婆さんが、遠巻きにトラックを見て何やら話しているのを見てどこの物好きが引っ越してきたんだろうと心の中で笑った。
どうせ、都会の田舎に憧れてるんですとか言っちゃった人たちが興味本位で引っ越してきたのだろう。
だけど、そんな興味本位じゃこの村ではやっていけない。
面倒な近所付き合いやら、村の小さな祭りなどといった行事や、余所者への視線に耐えかねて今まで何人かこの村に引っ越してきたがすぐに出て行ってしまった。
どうせ、ここの住人もすぐに出ていくだろうなと思っていた時だった。
強い風が吹き、それに飛ばされたのだろうかつばの付いた白い帽子が飛んできた。
一体、誰のだろうと拾い上げて土を落とし顔をあげた時だった。
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