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学らんを着た、平たい胸板、
白いのに、節くれ立った手、
絵の具で汚れた上履き。
いつもの自分だってそうたわわではないけれど、これは…男の体だ。
そう思った瞬間、慌てて戸をぴしゃっと閉めてしまった。
それと同時に、
自分の太腿辺りで、見慣れた制服のスカートがふわりと揺れたのがわかった。
上履きも、いつもの緑色に戻っている。
ハッとして、スカートのポケットから小さな鏡を出し自らを確かめると、
そこに映っているのは、やはりというか…私自身だった。
「今のはいったい、なんだったの?」
鏡に向かって、頬を撫でながら呟く。
さっき教室に置き去りにした“私”も、出て来る気配はない。
となれば、思うことは一つだ。
“あれは、まぼろしだった”
…だってそうでしょう?私はここに居るんだから。
そう思えば、
あの怖さや奇妙さなんて、ものの数秒で薄らいでしまう。
そして、かわりに湧いてくるのは、好奇心だ。
私は、この戸をもう一度開けてみたくなった。
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