第1章

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ケントは、今朝もいつものようにお母さんに起こされ、眠い目をこすりながらよろよろトイレに行っておしっこをした。 そして、何度手で押さえても跳ね上がる、しつこい寝癖をつけた頭でモソモソと朝ご飯を食べているうちにやっと目が覚めてきた。 お母さんの目玉焼きは今朝も絶妙だ。 洗面所の鏡の前で、歯磨きなんか1日とばしでいいんじゃないか――なんて思っていると、お母さんが見透かしたように早く歯を磨けというので、仕方なく歯磨きをしたけれど、ゆすぎ方が甘かったのか、口の中にまだほんのりスースーする味がするなぁと思いながらドタドタと着替えを済ませた。 ランドセルを背負おうとしたところで、おとといかっちゃんに借りた『ワンピース』の最新刊を机の上に置きっぱなしだったことを思い出し、慌てて部屋に取って返してごちゃごちゃの机の上の混乱をさらに広げながら、やっとみつけたコミックをランドセルに押し込むと、 「いってらっしゃい」 というお母さんの声に送り出されて家を飛び出した。 背中でガシャガシャいうランドセルの音を聴きながら、角のスズキさんちの庭で飼われている柴犬のデンスケに挨拶して、そこから見える公園の時計のオブジェを見ると、まだ時間は十分あったのにも関わらず、どうしてだか学校に着くころには、いつものように予鈴の五分前だった。 ケントはいつも、まっすぐ学校に向かっているつもりなのだが、どうもそうじゃないらしい。 不思議だ。 滑り込みセーフだと思いながら、教室のドアを開けると、いつものようにかっちゃんが少し怒った顔で 「ケント、おせーよ!」 と言った。 「おはよー。でもセーフだぜ」 と気取って返しながら、さて、ランドセルをロッカーに仕舞おうとして、背負っていないことに気づいてびっくりした。 「あれっ?」 ケントの様子に気づいたかっちゃんが、呆れた声を出した。 「おまえ、またランドセル忘れたのかよー!」 またじゃない。四年生になってからは初めてだ、とケントは思う。 ――おかしいな。公園過ぎるまでは背負ってたのにな。どこに置いたんだっけ? 考えているうちに、ケントのうっかりに教室中からドッと笑い声が上がる。 「ケント、やべー!」 「ニンチショウかよー!」 誰かが聞きかじりの新しい言葉を使ってケントをからかう。 ただし、教室の雰囲気は決して悪くない。
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