第一章

2/9
前へ
/43ページ
次へ
 001  私は、平凡をのぞんでいる。  平凡な日常。  平凡な毎日。  平和で、争いのない、そんな生活を望んでいる。 「じゃあ、行ってきまーす」  戸締まりをしっかり確認し、平和の確認。  朝食を食べて、顔を洗い、歯を磨いて、朝のニュース番組で今日も司会のおねえさんはかわいいなと微笑んで、制服に着替えて、家を出た。  002  電車の中。  都心部に向かうこの乗り物は、人が大勢いて座れる余裕なんて皆無で、満員でぎゅうぎゅう詰めで、そんな中で私は吊革につかまり本を読んだ。  本の題名は、サルトルの『嘔吐』。  003  私の通う学園は都市部でもとくに喧噪がはげしいとこで、最寄り駅はとくにファッション通りがあるため、いつも若者でにぎわっている。  私はここが通学路でもあるため、よく近くを通る。  大きな街路樹がそびえる歩道。  壮大な枝葉によって生まれた影は、道路を進む車や、歩道を歩く人々を覆い尽くす。  涼しくて心地よく、この道自体が人々の憩いの場のようだ。  周りの人々は私の制服に注目する。あくまで目につくのは制服だ。私という中身ではなく、パッケージに目がいくのだ。  そのあとに、メガネだとか、長い黒髪とか、顔を見極めるのだ。 「……むね、でかいよなぁ」「なぁ」  いや、そこか。  ちらりと聞こえてしまったが、聞こえないフリだ。  耳にはイヤホン。嫌な雑音は聞かないフリ。  そうだ、なかったことにしてしまえばいい。  その方が平和だ。  ――クルメは外見で選んでないよ?  つい、昨日のことを思い出してしまった。  かぶりを振って雑念を払う。  私は、カバンを肩にかけてテクテクと学園へと向かう。  004  昨日の夕方。  土手で変な女の子と出会った。  クルメと、名乗った少女。  赤と黒のパーカーで、ガスマスクで、私を好きだと言って、特別な関係になりたいと言って。 「今日はまだタイミングじゃないね」  と言って、急に踵を返して立ち去った。  ……ホント、最初から最後までワケ分からない奴だった。  私は、まるで取り残されたかのような気分になった。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加