1人が本棚に入れています
本棚に追加
001
私は、平凡をのぞんでいる。
平凡な日常。
平凡な毎日。
平和で、争いのない、そんな生活を望んでいる。
「じゃあ、行ってきまーす」
戸締まりをしっかり確認し、平和の確認。
朝食を食べて、顔を洗い、歯を磨いて、朝のニュース番組で今日も司会のおねえさんはかわいいなと微笑んで、制服に着替えて、家を出た。
002
電車の中。
都心部に向かうこの乗り物は、人が大勢いて座れる余裕なんて皆無で、満員でぎゅうぎゅう詰めで、そんな中で私は吊革につかまり本を読んだ。
本の題名は、サルトルの『嘔吐』。
003
私の通う学園は都市部でもとくに喧噪がはげしいとこで、最寄り駅はとくにファッション通りがあるため、いつも若者でにぎわっている。
私はここが通学路でもあるため、よく近くを通る。
大きな街路樹がそびえる歩道。
壮大な枝葉によって生まれた影は、道路を進む車や、歩道を歩く人々を覆い尽くす。
涼しくて心地よく、この道自体が人々の憩いの場のようだ。
周りの人々は私の制服に注目する。あくまで目につくのは制服だ。私という中身ではなく、パッケージに目がいくのだ。
そのあとに、メガネだとか、長い黒髪とか、顔を見極めるのだ。
「……むね、でかいよなぁ」「なぁ」
いや、そこか。
ちらりと聞こえてしまったが、聞こえないフリだ。
耳にはイヤホン。嫌な雑音は聞かないフリ。
そうだ、なかったことにしてしまえばいい。
その方が平和だ。
――クルメは外見で選んでないよ?
つい、昨日のことを思い出してしまった。
かぶりを振って雑念を払う。
私は、カバンを肩にかけてテクテクと学園へと向かう。
004
昨日の夕方。
土手で変な女の子と出会った。
クルメと、名乗った少女。
赤と黒のパーカーで、ガスマスクで、私を好きだと言って、特別な関係になりたいと言って。
「今日はまだタイミングじゃないね」
と言って、急に踵を返して立ち去った。
……ホント、最初から最後までワケ分からない奴だった。
私は、まるで取り残されたかのような気分になった。
最初のコメントを投稿しよう!