第一章

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 歩きながら手を振って――廊下を動く歩道のように通りすぎていった。  ――赤と黒のパーカーを着た少女がいた。  ガスマスクも被っていた。  クルメだ。 「……何で?」  私は神妙そうな声を出す。 「ど、どうしたの、シキちゃん」  祖父江が心配そうにたずねた。  体をもどすと、祖父江だけじゃなくみんながキョトンとしていた。そうか、みんなは気がつかなかったのか。今さっき、見るからに怪しい人物が通ってたんだけど。  仕方なく、私は言い訳を考えた。  正直にガスマスクがいたと言っても、みんな頭を疑うだけでしょ。 「ちょっと――嫌な人がいて」  うまくない、誤魔化し方だ。  嫌な人なのは間違いないが。正解でもない。怪しい人の方が近いだろう。(ちなみに正解は危険人物) 「なっ、シキに嫌なやつ!?」と佐藤が大仰に声を上げた。  あんまりな音量だったので、私はビクッと震えてしまう。 「――っ!?」だが、他にも佐藤以上におどろく鈴屋。 「驚いた、怒りとは全くの無縁だと思ってたのに」と瀬尾。 「……だ、誰?」心配そうな祖父江。まさか、ワタシじゃないよねと言うかのような。  どうやら、それほどみんなには私が誰かを嫌うのは意外らしい。
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