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歩きながら手を振って――廊下を動く歩道のように通りすぎていった。
――赤と黒のパーカーを着た少女がいた。
ガスマスクも被っていた。
クルメだ。
「……何で?」
私は神妙そうな声を出す。
「ど、どうしたの、シキちゃん」
祖父江が心配そうにたずねた。
体をもどすと、祖父江だけじゃなくみんながキョトンとしていた。そうか、みんなは気がつかなかったのか。今さっき、見るからに怪しい人物が通ってたんだけど。
仕方なく、私は言い訳を考えた。
正直にガスマスクがいたと言っても、みんな頭を疑うだけでしょ。
「ちょっと――嫌な人がいて」
うまくない、誤魔化し方だ。
嫌な人なのは間違いないが。正解でもない。怪しい人の方が近いだろう。(ちなみに正解は危険人物)
「なっ、シキに嫌なやつ!?」と佐藤が大仰に声を上げた。
あんまりな音量だったので、私はビクッと震えてしまう。
「――っ!?」だが、他にも佐藤以上におどろく鈴屋。
「驚いた、怒りとは全くの無縁だと思ってたのに」と瀬尾。
「……だ、誰?」心配そうな祖父江。まさか、ワタシじゃないよねと言うかのような。
どうやら、それほどみんなには私が誰かを嫌うのは意外らしい。
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