第二章

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 012  正直言うと、生徒会長のことはあまり知らない。  何度か話したことがある。  磯谷さんは真面目でえらいね。一年生で、そこまで献身的に委員会活動に参加するのは珍しいよ。いや、本当はきみのようなのが当たり前かも知れないけどね。恥ずかしいが、この学園はまだまだ生徒がたるんでいて――と、褒めているのか、褒めてないのか、よく分からないことを言われた。 「どうでもいいことしか、覚えてないな」  私の率直な感想。  身近な人なのに、ブラウン管の向こうの戦争みたいだ。  まるで現実感が涌かない。  013 「僕はね、有害作品は全て排除すべきだと思うんだ」  ごめんね、生徒会長。  実は私、あなたの名前もはっきりと覚えていないの。  何だっけ、たしか偉そうな名前だったよね?  さらにいえば、顔も覚えていない。  だって、ろくに目も合わせなかったから。  だからね、生徒会長。  あなたのことは。  こんなセリフしか思い出せない。  一生懸命、弾圧してたことばかり思い出すの。 「本当にすばらしい作品? ……そうだな」 「純文学とかですか? 太宰治とか、芥川龍之介とか」 「……そうだね。太宰も、走れメロスはよかった」 「人間失格は?」  生徒会長は、何も言わなかったな。  014  個人的には、生徒会長には芥川龍之介の『地獄変』を読んでもらいたかったな――。
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