第二章

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 ACIDは、――日本70年代のロックミュージシャンのようにめちゃくちゃだ。  あらゆる政治闘争に参加し、茶化す。  単なるボカロアーティストではない。  歌い手を機械に任せてるくせに、政治や国際情勢は他人の手に任せたくないというかのように、彼はあらゆる戦いに身を置いている。  彼の茶化し方は一流で、どっちの側も関係ない。  つかない。  あっちもこっちも、どっちもそっちも、彼は茶化し尽くす。  それがまた的確に本質を射貫いたもので、さらにACIDは日本国内だけじゃなく、海外の問題も追及するから至る所敵だらけで、自分も批判を山ほど受けてるはずなのに、国によっては彼の存在自体がタブーなのに、それでも彼は未だに現役であり続ける。  だから、私はACIDが好きだった。 「で、でも、ACIDとかは好きそうだよね。ACIDは、真面目にやってるし」  真面目にふざけてるだけだが。  祖父江は妙にACIDが好きだ。私もACIDのことは好きだが、ときおり激しく嫌悪するので彼女とは違う。 「あの子はACIDも嫌いだと思うけど……んぅ、私は嫌いじゃないんだけどねぇ」極端に好きでもないが。 「そういえば、生徒会長が死んだのってACIDの悪口言ったからだって」  祖父江が言う。  ――よっしゃああああああああああああっ!!  遠くで、佐藤の声が聞こえた。  あの子、何だかんだいってテンション高いじゃないか。  ちなみに、彼女の近くには鈴屋もいる。彼女も実は運動ができる。 「……それ、噂か何か? 祖父江ちゃん、あまりそういうのに乗らない方がいいよ」 「ち、違うの。う、噂は噂なんだけど」  祖父江は体育教師に背中を向けて、半ズボンのポケットに隠していたスマフォを私に見せる。いや、別に見せなくてもいいけど、それは彼女が敬愛するこの学園の裏サイトだ。今は、どこの学園にも専用のサイトがある。そう、トイレの落書きのように人の中傷や罵声を塗りつけるサイト。昔は考えられなかったらしい。しかし、大なり小なり似たようなのはあったと思う。  祖父江はこういうのが好きだ。私もこんなのが好きな彼女が嫌いじゃない。ひどく人間らしい。 「ほら、これってACIDのアルバムのようじゃない?」  サイトの掲示板には、生徒会長が殺されたときの目撃情報が書かれていた。
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