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「こ、答えてもいいけど……」と、クルメは言う。「でもそうなると、もう引き返せないよ?」
「は、引き返せない?」
どういう意味だろ。
私は疑問符を浮かべるが。
「クルメはね、キミに――磯谷色に新しい世界を見せてあげる」でもそれは、これまでの世界をぶち壊すことになると彼女は言った。「くだらない空なんて落としてあげる」
それでもいい?
と、彼女は言った。
……何を言ってるのだ、この子は。
「ファウストを気どってるの?」「まさか、クルメは恋愛探偵だよ?」
その言葉にハテナマークが殺到する。
「は? 恋愛、探偵?」
何それ、と聞く前にクルメが答えた。
「誰かの恋愛を探し、誰かの恋愛を守るために活動する。非合法の組織。それが、恋愛探偵だよ」
組織なんだ。
……いや、奇妙な格好をした少女がいうと現実味が皆無なんだけど。
「ちなみに、構成員はキミとぼく」
二人かよ。
というか、二人で組織と言えるのか……?
一瞬、真面目に聞いて損した。
「って、さっきから私の質問に答えるどころか、違う方へ、違う方へ、行ってるじゃない」
私は慌てて話をもどそうとする。
「どうして、あなたは周りに気にされないの? まるで、これじゃ誰にも姿が――」
「おーい、シキシキー! 一人で何やってんだよぉ!」
佐藤の声がした。
佐藤は、三階の教室のある窓から、中庭にいる私に手を振っていた。
「生徒会はもう終わったの!?」と、それは聞いちゃ駄目っと鈴屋が引っ込めさせる。「だって、シキが一人で何かやってるから!」
彼女の言葉が、頭の中で無駄に反芻される。
一人?
え、一人って言ったの?
私は、クルメを見る。
「………」
掴んでいた手を離した。
「どうしたの? もうつながらなくていいの? クルメはいいよ? ……その、キミの好きにしても」
この子の姿は、誰にも見えてないのか。
辺りを見回す。
――ねえ、あの子。何やってるの?
――演劇か何か?
――やだ、あれって学級委員の。
「見えて……ないようだね」
クルメの姿は、誰の目にも映っていない。
いや、たった一人、私の目には映っているようだ。
「愛してるよ、シキ……」
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