第二章

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「こ、答えてもいいけど……」と、クルメは言う。「でもそうなると、もう引き返せないよ?」 「は、引き返せない?」  どういう意味だろ。  私は疑問符を浮かべるが。 「クルメはね、キミに――磯谷色に新しい世界を見せてあげる」でもそれは、これまでの世界をぶち壊すことになると彼女は言った。「くだらない空なんて落としてあげる」  それでもいい?  と、彼女は言った。  ……何を言ってるのだ、この子は。 「ファウストを気どってるの?」「まさか、クルメは恋愛探偵だよ?」  その言葉にハテナマークが殺到する。 「は? 恋愛、探偵?」  何それ、と聞く前にクルメが答えた。 「誰かの恋愛を探し、誰かの恋愛を守るために活動する。非合法の組織。それが、恋愛探偵だよ」  組織なんだ。  ……いや、奇妙な格好をした少女がいうと現実味が皆無なんだけど。 「ちなみに、構成員はキミとぼく」  二人かよ。  というか、二人で組織と言えるのか……?  一瞬、真面目に聞いて損した。 「って、さっきから私の質問に答えるどころか、違う方へ、違う方へ、行ってるじゃない」  私は慌てて話をもどそうとする。 「どうして、あなたは周りに気にされないの? まるで、これじゃ誰にも姿が――」 「おーい、シキシキー! 一人で何やってんだよぉ!」  佐藤の声がした。  佐藤は、三階の教室のある窓から、中庭にいる私に手を振っていた。 「生徒会はもう終わったの!?」と、それは聞いちゃ駄目っと鈴屋が引っ込めさせる。「だって、シキが一人で何かやってるから!」  彼女の言葉が、頭の中で無駄に反芻される。  一人?  え、一人って言ったの?  私は、クルメを見る。 「………」  掴んでいた手を離した。 「どうしたの? もうつながらなくていいの? クルメはいいよ? ……その、キミの好きにしても」  この子の姿は、誰にも見えてないのか。  辺りを見回す。    ――ねえ、あの子。何やってるの?  ――演劇か何か?  ――やだ、あれって学級委員の。 「見えて……ないようだね」  クルメの姿は、誰の目にも映っていない。  いや、たった一人、私の目には映っているようだ。 「愛してるよ、シキ……」
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