第二章

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 027  電車を降りて、自宅近くの道を歩く。 「うぅ、シキがクルメの相手してくれないよぉ。せっかく家に向かうのにぃ……」  しかし田舎だな。コンビニと公民館があるくらいの駅前で、さびれている。  交差点を通る。  ここは近くにパチンコ屋もあり、近くの学校の通学路でもあるから人はいるが、それだけだ。あとは何もない。人がいても、何もないのなら意味がない。 「田舎だしぃ。シキ、シキの実家は田舎すぎだよぉ」  こいつ……。  028 「家に――入れてっ――よっ!」  中に入ろうとするのを止める。  玄関で攻防。  彼女はトビラの間に靴をはさんで入ろうとするが、私は靴を叩いて押しだし、絶対に入れないつもりだ。  私は二階建ての家に住んでいる。  アメリカのシンプルな切妻屋根のデザインのような家。  その中に入ろうとするのを、止める。 「よしっ!」  靴を押し出すと、バタンッとトビラを閉めて鍵をかけた。これで、やっと終わった。  029 「おかえりー、シキ!」  だが、クルメは私の部屋の中にいた。  六畳半くらいの広さ。  本棚二つと、ベッドが部屋の大半を占領し、悲しいことにテレビはなく、唯一使えるのはTVチューナーのついた携帯ゲーム機。またあと、ノートパソコンが一台。  クルメはベッドの上に座っていた。  子供のように両足をバタバタさせて、ご機嫌な表情を――片目で判断すると、浮かべていた。  部屋をよく見ると、窓ガラスが開いていた。家を出るときに鍵をかけ忘れちゃったのかな。  ……私は自分の愚かさを嘆く。 「シキの部屋って本が多いね。漫画もあるけどほとんどは……あははっ、イタリアやフランスからスペインのまで。文学だけでもこんなに種類が」クルメは見て回る。「へぇ、これって実験的手法のあの人でしょ。記号を張り付けるような、フランス人の。他にもスペインは『黄色い雨』だね。この人、好きなの? クルメもスキー。でも、アメリカ文学はないんだね。ライ麦畑とか好きそうなのに」 「あれ、少しも理解できなかった」  つい、返答してしまう。 「というか、読んでてむかむかしちゃって……」 「人間失格を読んでる人が?」  クルメは私の本棚にある『人間失格』を指さした。本棚といっても、縦に行儀良く並べたのではなく、スペースがないので本の上に置いたものだ。
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