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「……積ん読してるだけかもよ?」
「それはないよ」クルメは言う。「これ、何度も読み返すからここに置いてるんでしょ? もちろんスペースもあるだろうけど。これ、明らかに何度も読まれてる形跡あるし。てか、お風呂で読んだ? ちょっとふやけてるよ」
「………」
読んだ。
お風呂で読んだ。それも何回も。長風呂が好きだから、でもただ入るだけじゃもったいないから本を読もうって……。大した推理だこと。
というか、何故私は幻覚と呑気に話してるのか。
「幻覚じゃないよ」
クルメは、私の本棚から本を取り出してパラパラーとめくった。夢野久作の『ドグラ・マグラ』。「これは嫌い?」ノーコメント。というか、その本を何回も読む人はいるのだろうか。一応、一度読んだら発狂すると言われてる本でしょ?
いや、それならとっくに私は発狂してるんだろうけど……待て。現に、発狂してるのか。今、私は。
「シキはまだ、発狂もしてないよ」
私の心を読むように彼女は言った。
「だって、シキのこと何となく分かるもん――」クルメは言う。「クルメはね、きっとシキと結ばれるために生まれてきたんだよ」
「………」
壮大だこと。自分の誕生を私につなげてきたか。
どうする。逃げ場は……いや、そもそも私の幻覚なら逃げ場なんてないじゃない。
「だから、私は幻じゃない。人間だよ? ちゃんと生きてる」
クルメは『ドグラ・マグラ』を本棚にもどし、私の手を引っ張って自分の胸にふれさせる。
「ほら、鼓動がするでしょ?」
――ドクンッ、――ドクンッ。
たしかに、彼女のらしい脈動が感じられた。
しかし、胸がちいさい。
「……今、すごい侮蔑言葉をはかれた気がするよ」
「別に何も言ってないよ?」
勘がいいな、この子。
自分の悪口に感づくなら、私がひどく迷惑してるのも感づいてほしいけど。
しかし、これが幻覚だったら私自身が生みだしたものだから納得がいくけど。ここまで勘がいい子がそういるものか。それこそ、心を読まれてるみたいだ。
「クルメは特別なの」だって、とクルメは言う。「シキと結ばれるために――」
二度目のセリフ。
何回も言われると胸焼けがする。
クルメは私を高揚させるために言ってるのかもしれないが、実際は逆に冷めてしまった。何回もバラを渡されればバラに慣れる。
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