第二章

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 さて、鼓動はした……だが、それは幻覚でも起こりうることじゃないか。  さわって、鼓動を感じたという幻覚。  ありえない風に思う幻覚だが、可能性はゼロではないはずだ。  ……いや、それだけじゃない。  クルメは、『ドグラ・マグラ』の本を手にとってページをめくったのだ。  あれも幻覚?  幻覚ってもっと突拍子もないものじゃないの。それこそ、ドラッグだったら視界もグニャグニャをゆがんで、立つことすらままならないはず。  私のは。  私のは……一体何だろう。  随分と細緻な幻覚だ。  ……もしかして、幻覚じゃない? 「ぬ、ぬぅぅっ」  私はとっさに指で十字架をつくる。 「何そのエセウルトラマン。やりたいことは分かるけど、まずそれ、日本じゃ通用しないよね?」  ホラー映画の見過ぎ?  という、ツッコミもされた。  い、いや、自分でも何やってるんだろうという行動だが、今は緊急事態なんだから何も考えずに突発的にやるのは当たり前でしょ。そんな、今すぐどうなるか知れない状況なんだから冷静になんてなれないよ。 「どうしても、信じられない?」クルメはさびしそうに言う。「クルメ、こんなにも愛くるしいのに」  それは関係ない。  あと、ガスマスクでそれ言われても意味がない。 「……あ、そうか」  と、私はポンッと手を打つ。 「どしたの?」 「これ、ドッキリでしょ!?」  私の声が大きくこだまする。 「うん、予想外に残念な答えだよ」 「そういって! ドッキリでしょ。ドッキリだよね? そうか、佐藤とかがきっと提案者だね。ほんともう、馬鹿な子なんだから佐藤は。でもいいよ、あやまれば許してあげる。大方、あの四人の内の妹とか親戚じゃない?」 「クルメ、シキより年上なんだけどな……」というか、とさらにクルメはいう。「クルメの姿って、仲間内だけじゃなく。他の生徒からも見えてなかったよね」 「………」  冷静なツッコミを、幽霊か幻覚か分からない相手に言われた。  彼女は、赤と黒のパーカー、さらにガスマスクという奇っ怪な格好をしていた。  それなのに、彼女は目で追われることもなければ「何あの子-?」と指さされることもなかった。  というか、普通なら教師に捕まって追い出される。 「………」  私の沈黙。 「――?」  クルメは不思議そうに首をかしげる。ポーズだけならかわいらしいけど、ガスマスクでやられると怖い。 「……っ(目線を動かす)」
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