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深夜、死体が転がっている。
人通りの少ない道。
四車線の大通りから脇道に進んで、数十分は離れたここは、静寂に包まれており耳が痛くなるほど音がない。だからこそ、死体はより寂しく見えた。
死体は少年の死体で、その死体を見下ろすのは二メートルはあるんじゃないかっていうほどの大男。その大男の姿は、某アーティストのあるアルバムのジャケットに似ていた。
【 】
茶色によごれた布を顔に巻き、
首から下の体はとても鍛えられていて、肌は病的なほど白。
腰にも布を巻いているがそれ以外は何も着ていない、ほぼ全裸。
大男は両手で二本の剣をにぎっている。
二本の剣。
西洋のロングソード……切るというより、叩く方が効果的な剣。
【 】
死体は、バラバラ。
断面図を見ると鋭利な刃物で切られたようにも見える。実際は鋭利でも何でもない。豆腐をハンマーで切断したかのように、人間を切断しただけだ。
そう、それは人が行える殺し方ではない。
そう、大男は人ではない。
【 】
死体は頭の先から股間までを一直線、右肩から左脇腹、左肩から右脇腹――*(アスタリスク)のように切られている。人はそこまでになるともはや死体と呼んでいいのかも分からない。丁重な扱いは皆無。おそらく、唯一の幸運は痛みを感じる間もなく死んだことだろう。分断した眼球は、それぞれ見当違いの方に向いている。血は、昼間雨が降っていたからまだその跡が残っていて血と混ざり合い、タラタラと排水溝に落ちていく。
自販機の光。街灯の光。かすかに遠くから聞こえる車の音。
大男はゆっくりと歩き出す。
悲鳴が上がった。
ようやく、誰かの目に入ったようだ。
誰か、誰かぁぁぁっ、と人を呼ぶ。誰か、誰かぁぁぁっ、と何度も呼ぶ。ケータイを使うのも忘れて辺りに人がいるのを期待していた。大男の横を素通りする。誰か、誰かぁぁぁっ、と叫ぶ。大男は姿を消す。
大男の姿は、誰にも目撃されなかった。
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