Opening

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「愛がほしいの」ガスマスクちゃんは言う。近づく。「愛がほしいの。そこら辺に売ってるものじゃない。今時、コンビニにいけば愛も120円で買えそうな時代だけど、あんなのじゃない。クルメはもっと深い、熱い、鋭い――そして濃厚な愛がほしいの」  声が間近で聞こえた。  たじろいで、たじろいで――転んでしりもちをついていしまい、私は自分より小さな子を見上げることになる。ガスマスクの片目で私は目が合う―― 「友達になるがヒモを結ぶ程度なら、クルメは車両と車両を連結するような愛がほしい。濃厚なのがいい。熱いのがいい。狂ってしまうほど愛がほしい。クルメは外見で選んでないよ?」  私の胸にチョンッとふれながら言う。  ――少しして、ようやくセクハラされたことに気付く。私は咄嗟に胸をかくす。いや遅い。 「体で得られる愛って一時的なものだよね。俗物すぎるよ。そういうものじゃない。もっと、もっと、心と心――いや、生ぬるいよね。体と体がヒモを結ぶ程度なら、心は連結? じゃあクルメは、接着剤でくっついたかのような愛がほしい――いや違う。もっと固い、一生解けないような、鉄と鉄を一度溶かしてくっつけたかのような――愛がほしい」  両膝をたてて、両手を背後の地面につけてしりもち状態の私に――乗っかる彼女。 「クルメ、クルメだよ? 心にきざんで?」「いや――っだよ」  彼女の名前はクルメ。ガスマスクじゃなく、クルメ。彼女じゃなく、クルメ。  忘れたいのに、彼女はくぐもった声で何度もささやく。 「クルメだよ?」「やだ」「クルメ」「うるさい」「クルメ」「何なの、あなた……」「クルメだって言ってるでしょ」「そういうことじゃなくて」「クルメ」  クルメは言った。
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