1人が本棚に入れています
本棚に追加
「愛がほしいの」ガスマスクちゃんは言う。近づく。「愛がほしいの。そこら辺に売ってるものじゃない。今時、コンビニにいけば愛も120円で買えそうな時代だけど、あんなのじゃない。クルメはもっと深い、熱い、鋭い――そして濃厚な愛がほしいの」
声が間近で聞こえた。
たじろいで、たじろいで――転んでしりもちをついていしまい、私は自分より小さな子を見上げることになる。ガスマスクの片目で私は目が合う――
「友達になるがヒモを結ぶ程度なら、クルメは車両と車両を連結するような愛がほしい。濃厚なのがいい。熱いのがいい。狂ってしまうほど愛がほしい。クルメは外見で選んでないよ?」
私の胸にチョンッとふれながら言う。
――少しして、ようやくセクハラされたことに気付く。私は咄嗟に胸をかくす。いや遅い。
「体で得られる愛って一時的なものだよね。俗物すぎるよ。そういうものじゃない。もっと、もっと、心と心――いや、生ぬるいよね。体と体がヒモを結ぶ程度なら、心は連結? じゃあクルメは、接着剤でくっついたかのような愛がほしい――いや違う。もっと固い、一生解けないような、鉄と鉄を一度溶かしてくっつけたかのような――愛がほしい」
両膝をたてて、両手を背後の地面につけてしりもち状態の私に――乗っかる彼女。
「クルメ、クルメだよ? 心にきざんで?」「いや――っだよ」
彼女の名前はクルメ。ガスマスクじゃなく、クルメ。彼女じゃなく、クルメ。
忘れたいのに、彼女はくぐもった声で何度もささやく。
「クルメだよ?」「やだ」「クルメ」「うるさい」「クルメ」「何なの、あなた……」「クルメだって言ってるでしょ」「そういうことじゃなくて」「クルメ」
クルメは言った。
最初のコメントを投稿しよう!