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「蟲だ!ウミワラジだ!」
誰かが叫んだ。
長細い体躯は、
甲冑のような半月形の殻が幾つも連なって堅く護られている。
そのツルツルした背中とは反対に、
腹の側には無数の足が蠢き、
石畳を引っ掻いている。
「何故こんな所にウミワラジが?」
ユズナの言葉に、
シオンは分からない、
という風に首を横に振った。
ウミワラジは海岸沿いに広く生息している。
しかし、
見た目の大きさに比べて用心深く、
港のような人の多いところには姿を現さない。
少なくともテパンギのウミワラジはそうであった。
「誰か番兵を呼んでこい!」
露店の店番が叫んだ。
「下がって」
シオンはユズナに耳打ちした。
周りの人々も、
足早にその場から立ち去って行く。
店のある者も、
お金の入った駕籠だけを持って離れて行く。
一匹くらいであれば、
港の番兵隊が追い払うなり、
仕留めるなりしてくれるだろう。
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