第1章

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「蟲だ!ウミワラジだ!」  誰かが叫んだ。  長細い体躯は、 甲冑のような半月形の殻が幾つも連なって堅く護られている。 そのツルツルした背中とは反対に、 腹の側には無数の足が蠢き、 石畳を引っ掻いている。 「何故こんな所にウミワラジが?」  ユズナの言葉に、 シオンは分からない、 という風に首を横に振った。 ウミワラジは海岸沿いに広く生息している。 しかし、 見た目の大きさに比べて用心深く、 港のような人の多いところには姿を現さない。 少なくともテパンギのウミワラジはそうであった。 「誰か番兵を呼んでこい!」  露店の店番が叫んだ。 「下がって」  シオンはユズナに耳打ちした。 周りの人々も、 足早にその場から立ち去って行く。 店のある者も、 お金の入った駕籠だけを持って離れて行く。 一匹くらいであれば、 港の番兵隊が追い払うなり、 仕留めるなりしてくれるだろう。
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