第1章

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 その声を聞いても、 少女は何が起きたのか、 これからどうなるのか飲み込めずに、 呆然と弟を抱きすくめていた。 「早く行け」  今度は男の声がした。 少女の目に、 長い刃物が映った。 片刃の剣だった。 それはまるで月光を浴びた魚の腹のような銀色をしていた。  蟲よりも、 その刃物に対する恐怖が、 少女に正気を取り戻させた。 弟を引きずるようにして、 その場から遠ざかる。  突然、 横から木の棒で殴られたウミワラジは怒っていた。  躰の前半分を縦に起こして、 相手を威嚇する。 伸び上がると、 民家の二階に届きそうな高さになる。 腹側にひしめく足が威嚇を始める。 その胸部には、 武器となる二本の長い触手が丸まって収まっているのだ。
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