第1章

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 蟲は身体をひねって悶えると、 尾でシオンを打とうとする。 「浅い」  そう言うと、 シオンは剣を引き抜き、 ウミワラジの尻尾を刃の峰で受け止めた。 身体が宙に浮き、 そのまま跳ね飛ばされる。  身を突かれた痛みに、 ウミワラジは悶え、 暴れる。 シオンの言葉どおり、 傷は浅く、 ウミワラジの息の根を止めることは出来なかった。  触手の巻き付いた竿が、 ユズナの手からもぎ取られる。 「銛を打て!」  いつの間にか遠巻きに蟲を取り囲んでいた番兵達が、 兵長の号令にしたがって、 柄尻に綱の付いた銛や鋼鉄の鉤を投げる。  しかし、 その攻撃は僅かに期を逸していた。 ウミワラジは無数の節足で覆われた腹を隠すように、 身を起こした。 銛は楊枝のように背中の堅い殻に弾かれる。 それでも二本の鉤が殻の隙間に食い込んだ。
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