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大声が飛び交い、
張り巡らされた綱や船体がキシキシと鳴る。
そんな中、
船上の騒がしさには加わらずに、
陸を眺めている娘の姿があった。
黒い髪をうなじで束ねている。
布の旅衣をまとい、
潮風を防いでいた。
髪と同じように黒い瞳と、
小筆で一息に描いたような、
凛として真っ直ぐな眉が印象的だ。
名をユズナという。
「とうとう来たわね、
シオン」
彼女はそうつぶやいた。
シオン、
と呼ばれた若者が娘の側に立っている。
しかし彼は娘の言葉には応えずに、
ただ黙っていた。
背は高く、
ユズナよりも頭二つほど抜き出ている。
均整のとれた身体からは、
どことなく人を威圧する空気が流れ出ていた。
腕力自慢の船乗りとは違う種類の気配だ。
腰の剣と、
清潔ではあるが質素な服装を見れば、
人は傭兵か何かだと思うだろう。
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