第1章

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 大声が飛び交い、 張り巡らされた綱や船体がキシキシと鳴る。  そんな中、 船上の騒がしさには加わらずに、 陸を眺めている娘の姿があった。 黒い髪をうなじで束ねている。 布の旅衣をまとい、 潮風を防いでいた。 髪と同じように黒い瞳と、 小筆で一息に描いたような、 凛として真っ直ぐな眉が印象的だ。  名をユズナという。 「とうとう来たわね、 シオン」  彼女はそうつぶやいた。  シオン、 と呼ばれた若者が娘の側に立っている。 しかし彼は娘の言葉には応えずに、 ただ黙っていた。 背は高く、 ユズナよりも頭二つほど抜き出ている。 均整のとれた身体からは、 どことなく人を威圧する空気が流れ出ていた。 腕力自慢の船乗りとは違う種類の気配だ。 腰の剣と、 清潔ではあるが質素な服装を見れば、 人は傭兵か何かだと思うだろう。
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