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彼女に気づいたのは、高1の秋だった。
部活でランニングする学校近くの笠井公園で、私服姿の彼女を度々見かけるようになった。
その公園は市街地にある公園としては、たぶん全国で1~2位を争うだろう総面積を誇る。
湖の周りが1周3キロのランニングコースになっていて、俺たちテニス部はそこを毎日3周走ってから、学校のコートに戻る。
でも、彼女がいつもいるのはランニングコースじゃない。
湖の隣に広がる原っぱや梅林。川が流れ、いくつもの小さな橋には赤い欄干。
四季折々の花が咲き乱れ、池では水鳥が羽を休める。
そこここにあるオブジェは地元の造形作家の作品らしい。
そんな美しく整備された公園で、彼女は小さなスケッチブックを抱えていた。
たぶん彼女の家が湖側にあって、原っぱの方へ行くために湖の周りを歩いているのだろう。
湖の周りの道は白線で3つに仕切られている。
内側から、ウォーキングコース、ランニングコース、サイクリングコース。
湖の周りを歩く彼女がウォーキングをしているのではないことは一目瞭然だった。
リュックを背負っているし、ウォーキングっぽいウェアを着ていない。
時々、ミニスカート。
その細くて白い綺麗な脚を見ることが、いつしかランニング中の楽しみになっていた。
実は、てっきり中学生かと思っていた。
小柄で華奢な身体つきとか、追い抜きざまに振り返ってみた童顔とか。
何より、私服だということが、近所の中学生なんだろうと思わせた。
1つ年下の中3か。
来年、うちの高校に入って来ないかななんてことを期待していた。
それが同い年だと知ったのは、長袖・長ジャージでも寒くなってきた頃だった。
俺の少し前を走っていた須藤が前を走るおじさんランナーを抜かそうとして、サイクリングコースを走っていた自転車と接触した。
「大丈夫ですか?」
転倒した須藤に駆け寄った彼女は剥き出しの膝を地面につけた。
寒くないのかな?
地面にうずくまる須藤よりも彼女の短いスカートの方が気になった。
須藤が立ち上がると、彼女も立って、
「あれ? 須藤くん?」
と驚いた声を上げた。
2人に追いついて須藤に手を伸ばした俺はびっくりして手が止まった。
え? この2人、知り合いか?
「うん。大丈夫だから。」
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