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教室の戸を開けたら、そこには、全員、猫が座っていた。俺は絶句する。
(えっ?!一体、どうなっているんだ?)
先程まで真夏の暑い太陽と格闘し、自転車を飛ばしてきたのに、まさかの展開だ。
火照った体から流れ出る汗が、一瞬にして冷や汗に変わる。俺は、高速で瞬(まばた)きをしながら、教室を見渡した。
深緑の黒板と褐色の黒板消し。くすんだ青色のカーテン。クリーム色の天井と壁と床。天井からつるされた塗装の剥げかかった白い蛍光灯。淡い黄土色の机と椅子。
但し、背広を着た虎猫が一匹に学ランを着た虎猫とセーラー服を纏った三毛猫がひしめき合い、その教室にいると言う事を除けば、いたって平凡な風景であった。俺は思い出していた。
(そう言えば、昔ネットで調べた事がある。虎猫はオスが多く、三毛猫はメスが多いと。今、ここにいる数を見ると、ほぼクラスの半分ずつになっているように見える。という事は、虎猫はオス、三毛猫はメスという事になるんだろうか)
俺が我に帰ると、猫たちが一斉に俺の方を見ているのに気付いた。その円(つぶ)らで、クリクリとした湿った瞳が珍しい生き物でも見る様に俺を見ているのだ。
俺は言葉を失っていた。そして、俺は走馬灯を走らせるように記憶を辿る。
そう、それは夏の暑い朝だった。誰が決めたのだろうか。こんな炎天下の晴れ空に登校日なんて・・・。
うちの両親は共働きで、既に出勤した後だった。
俺はキッチンでつまらないワイドショー番組を一人寂しく見ながら、朝食をほおばる。焦げた塩辛い目玉焼きとこれまた焦げたトーストがマーガリンのまろやかさを打ち消すように渋みを効かせて、口の中で回転していく。
俺は味わう間もなく、数回噛んだだけで淹れ立てのコーヒーで、それを胃の奥へと流し込んでいく。
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