回想

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平日の朝の退屈な風景と言ってしまえば、その通りかもしれない。俺はトーストを食べ終わると、その重たい腰を上げた。 家の外へ出ると、ギラギラとした太陽がお出迎えだ。灼熱の光と乾いた暑いそよ風が舞っている。朝8時だと言うのに、なんて暑さなのだろうか。 家の近所の畑には柿の木が並び、クマ蝉とアブラ蝉がまるで競い合うかのように、混合二部合唱を繰り広げていた。そのお蔭で、暑さが一段とパワーアップしているように感じるのだ。 俺は、車庫の脇に止めてある黒いママチャリ(別称:タニ3号)にまたがると、定刻通りに家を出発した。 五月蠅(うるさ)い雷オヤジが居る盆栽だらけの家を通過。そして、馴染みの禿げ親父が経営する床屋前へと差し掛かる。あっ、と俺は思わず後頭部に手をやった。 (そう言えば、昨日、髪を切って貰ったけど、後ろの髪をかなり短く刈り上げにしてくれたなぁ。やたら、後ろが寒いんだけど・・・。) 夏なのに涼しい後頭部に気をやっていると、やがて、ママチャリ(別称:タニ3号)は下り坂へと差し掛かる。 俺は、その坂道を猛スピードで駆け下り、信号のない交差点へで急ブレーキをかけて一時停止した。 当然、ママチャリ(別称:タニ3号)のブレーキ部品が悲鳴のような金切り声を上げるのだった。俺は、それに構わず、左右に流れる車の波の車間を確認しながら、タイミング良く走り、対岸へ滑り込んだ。 そこから太陽に向かい、眩しい日差しを手で遮りながら、進むと大きな川へ突き当たる。紺色の夜空が水面に映えると昔の詩人が読んだとされる天青川。 俺が小学生の頃から良く魚取りをしたり、子供用自転車(別称:タニ1号と2号)で土手の上をサイクリングしていた場所でもある。
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