第1歩の前に昔話だってさ

2/5
前へ
/22ページ
次へ
「何故...何故こんな事を!」 周りは灰だらけの場所で少年と思われる血だらけの亡骸を抱えながら一人の男が叫ぶ。 「言い訳じぁ無いが、その子はもう人間には戻れ無かった、なら人間のまま死なせてやるのが情けだろ?勇者様?」 男の叫びにザンネは煙草を吹かしながら応える。 勇者と呼ばれた男は腰まで伸びた長い金髪 を肩の辺りで一つにまとめ、白い鎧に身を包み、腰には綺麗な装飾が施された剣を下げている。 だか今はその金髪も、綺麗な顔も、白い鎧も血がベットリと張り付いており、身体を震わせている。 「何でもあんたみたいに綺麗には終われねぇし、終わる必要もねぇ。その子の死はその子自身が望んだ結末だ」 ”魔力暴走者の処理”、今回ザンネが受けた依頼だ。 稀に魔物の魔力を何らかの要因で取り込んでしまい元々身体の中にある魔力と反発しあい魔力の暴走を引き起こし魔物側の魔力の方が強い場合取り込んだ者は例外無くAランク又はSランク相当の魔物になる。 そうなってしまえば治療法は皆無、殺すしか無い。 「っ!だがまだ間に合ったかも知れない!私の”創造”の力さえあればっ!」 それでも尚言い返してくる勇者にザンネは煙草の煙と共に溜め息を吐き出す。 「”たられば”の話でお前は町の人の命を危険に晒すのか?それに俺が依頼を受けて現場に着くまで一時間、勇者様が到着したのは更に一時間後、間に合ったと思うか?」 「っな!?それは!!...」 魔力暴走者が魔物化するまで個体差はあれど発症してから約一時間半、魔物になってしまえばいくら創造属性を持っている勇者が来た所で手遅れなのは過去に確認済みだった。 「....世界の全てを守るなんざ無理な話しなんだよ、例えそれが魔王を倒した勇者様であってもだ」 勇者は少年の亡骸を1度強く抱き締めザンネの正面に立つと口を開く。 「...貴様は世界は自ら立ち上がる力はあると思うか?」 いきなりの質問にザンネは少し考えるが咥えていた煙草を空に向かって放り投げる。 「勇者が聞いて呆れる、俺は迷える子羊を導く牧師じぁねぇんだよ!おい!剣を抜けよ世間の厳しさを教えてやるよ!!」 「それもそうだな、なら私は今の私の役目を、そして貴様から世界を見よう!」 「分けの分からん事を!」 勇者は少年の亡骸をそっと灰だらけの地面に置き腰の剣を抜き構える。 戦闘態勢に入った勇者からは先程とは比べ物にならない程の魔力が溢れ、大地を震わす。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加