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教室の戸を開けたら、そこには
魚が泳いでいた。
目の前を黄色と黒の縦縞模様が淡く光を放ちながら横切っていく。
「これ、立体映像か……?」
わけのわからないまま、おそるおそる足を踏みいれる。蒼く照らされた机や椅子の間では、銀色の魚たちが群れていた。まるで海の底にいるような気分だ。
海なんて実際には一度も見たことないけどな。
「すげーだろ?」
教卓前の席から得意げな声があがり、我に返った。声の主はこのクラスのリーダー格であるケント・カワサキだ。
「今度の文化祭でうちのクラスの出しもの、海をイメージした喫茶店になっただろ。だから頑張って作ってみたんだよ」
そう言う彼の前でクラゲの長い触手が揺れている。
「へえ……。少ない資料で、よくここまで作れたな。よくできている。当日が楽しみだよ」
教室を見渡しながら感想を述べると、生徒たちは目を輝かせた。が、
「じゃあ授業をはじめるぞ」
と宣言したとたん、皆、非難がましい視線を投げつけてくる。先生のケチ、なんて言葉さえ聞こえてきた。
「あのなあ、これはこれで面白いけど授業はするからな。ま、せっかくだから今日は地球についての話でもするか。皆も知っている通り、俺たちの祖先がかつて住んでいた星のことだ」
そう言っているうちに大きなエイが現れ、教室を悠然とまわりはじめた。
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