優しい時間

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考えていると、頭に靄がかかってくる。 自分の事なのに、思い出せない。 「え・・・、何でだっけ?」 だんだん、何を考えていたのかもわからなくなってくる。 こんなのはおかしい。 外はすでに真っ暗だ。 それもおかしい。 まだ、そんなに時間はたっていないはずだ。 それなのに、もう真夜中かと思うくらい、外は漆黒の闇に包まれている。 あのキラキラしたオレンジの粒達はどうしたんだ? こんなに急に消えてしまうのか? 「俺は大丈夫だから、お前はちゃんとお前の場所に戻れよ。そして東京の大学に行け。 目標だったろう?どうして迷子になってるんだよ」 アイツの声が頭に響いてくる。 「迷子?」 俺は眩暈を堪えながら聞き返した。 「迷子だろ?お前が進もうとしている道があるのに、違う道に入り込むから迷子になるんだよ。だから決断できないんだ。 地元の大学に行こうって思いは、違う道だ。お前の道じゃない。そうだろ?」 アイツの声が、俺の周りをグルグルと回る。 「迷子のお前を連れ戻しに来たんだ」 フッと遠のく意識の隅に 「迷うな!進め!お前は前に進んで行けるんだから」 アイツがそう言って。俺の背中をトンと押した。 閉じていた瞼に、光の矢が刺さってくる。 ゆっくりと目を開けるとそこは教室で、オレンジの光の粒子があふれていた。 「そうか」 俺はイスに座って寝ていたらしい。 懐かしい顔と声に会った。 三年ぶりくらいだろうか。 でも、アイツは学校指定のジャージを着ていた。 俺がそう願っていたからだろうか。 高校受験が嫌だと、一緒の塾に通いながら愚痴を言い合った。 そんなアイツが、病気になるなんて。 お見舞いに行く間もなくいなくなってしまうなんて、夢にも思わなかった。 「これね、トモ君に渡してって。あの子が最後に言った言葉なの。 もらってやってね」 アイツのお母さんに手渡されたものは、小さい紙袋。 開けると 『ハッピーバースデー』 と、汚い字で書いたメモが入っていた。 チリン メモと一緒に入っていたものが、掌で可愛らしい音をたてる。 『合格祈願』 鈴のついたお守り。 これをいったいいつ用意したのか。 俺の誕生日は、二か月も先なのに。 「机の引き出しに入っていたの。入院してすぐに持って来てくれって。 あの子に渡したら、嬉しそうに笑って、トモに渡してくれって。本当に楽しそうに笑ってたのよ」
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