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「あはは! コーちゃんは相変わらずバカだね!」
浩太郎が「ASE」の文字を消し始め、僕が文庫本を開こうとしたとき、可愛らしさを含んだ声が不意に耳に刺さる。その瞬間、僕は動けなくなった。認識を必死に追いかけるように、わずかに遅れて心臓が高鳴る。なんとか顔を向けると、そこには柚木愛が満面の笑みを湛えて立っていた。
「おはよう、二人とも!」
浩太郎が柚月におはよーと返す。僕は声がつっかえて「お、おはよう」になった。
「コーちゃん、また夏目くんに迷惑かけてんの?」
「いーんだよ、愛。俊介は俺に頼られて嬉しいってさ。な、俊介?」
「……うーん?」
「えー、絶対迷惑してるよー? ね、夏目くん?」
「うん。めっちゃ困ってる」
「おい」
僕の反応に柚木が声を上げて笑った。僕はそれだけのことで、胸中で狂喜乱舞だった。
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