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教室の戸を開けたら、そこには変身ヒーローが立っていた。
そんなのホントにはいやしないんだが、子どもの頃の遊びの思い出だ。
みんながテレビの変身ヒーローに夢中になっていて、ヒーローに変身する真似をするときによく使う物があった。
戸、扉だ。そういう物を開けたり閉めたりして、姿を見せたり隠したりして、変身気分を味わったものだ。
俺は教室の戸の前に立ち、黒板消しが挟まっていやしないかと上を見た。
「黒板消しなんて落ちてこないぞ。何を考えとるか。もう子どもじゃあるまいし」
そう言ったのは、この教室の担任、朝生春夫だ。
俺は苦笑した。
この戸を開けたら、そこには何が待っている?
この戸をくぐり、俺は何に変身する?
期待半分、不安半分――。
俺は教室の戸に手をかけ、それを横に滑らせた。
教室内の生徒達の目が一斉に俺の方を向いた。
俺は教壇に立ち、それまでの自分とはまるで違う声を出した。
「おはようございます。今日から教育実習で来ました、私の名前は――」
教室の戸を開けたら、俺は私になり、大学生から先生と呼ばれる者に変身したのだった。
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