第1章

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教室の戸を開けたら、そこには二羽ニワトリがいました。 私は長井聡子。小学校の教師をしています。担当している二年生は、ざわざわしながら鶏を見ていました。 「誰ですか、鶏をつれてきたのは」 「せんせい、いつのまにかはいってきてました」 「おれが来たとき、もういたぞ」 鶏は床に置かれた何かをついばんでいます。 「きのうのこしたパンがあったから、あげました。おなかがすいてるんじゃないかとおもって」 「川村さん、給食を食べられなかったとき、それを隠してはいけません」 「ご、ごめんなさい・・・」 「でも、餌をあげるというのは優しいですね」 「きゅうに羽バタバタするからこわいよせんせい」 「くちばしでつっつかれたらいやだなぁ」 「そうですね、よし、先生が捕まえましょう」 背中に冷や汗が流れていくのを感じながら、私はメガネを中指で上げました。29歳、教師生活8年目。鳥恐怖症だなんてことを悟られないようにしっかりと捕まえなくては。 誰にもバカにされないように。 誰にも隙を見せないように。
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