教室の戸を開けたら、そこには

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 本当は持ち主を見つけて突き返そうかと思っていたが、関わらない方が無難な気もしてきた。これは僕の手に余る。持ち主はとんでもないエロのトップランナーに違いない。  案外、関わるのは最小限にして、自分の席からよけるだけにしておいた方がいいかもしれない。  ただし問題はどこによけるか、だ。  隣の席は女子だ。流石に女子にエロ本をなすりつけるのは気が引ける。場合によってはセクハラにだってなりかねない。  前後は男子なのでまだ多少はマシだ。ただ、前の席の佐々木はオーバーリアクションに定評がある。エロ本を見つけようものなら大声ではしゃぎだすのが必至だ。一方、後ろの米沢は大人しいメガネくんだが、それをいいことにエロ本を置くのはイジメをしているようで気が引ける。 「……いっそ、教壇か?」  いや、そこがもっとも問題となる場所だろう。  うちの担任はアラサーの女教師で、とにかく冗談というのがわからない。猥褻物を持ち込んでるのがバレたら、高校生でも躊躇せず警察に突き出すだろう。  どうしたものかと悩んでいたら、反対側の戸がガラッと開いた。  瞬間、僕はエロ本を自分のスポーツバッグに入れてしまった。 「おはよう」  登校してきたのは渡辺秋日子(わたなべ・あきひこ)だった。 「お、おはよう」  あいさつを平然と返そうとしただけなのに、思わず声が裏返ってしまった。 「どうしたの? なんか挙動が怪しくない?」  渡辺さんはトランペットのケースを自分の机に置いた。彼女は吹奏楽に所属しており、朝練でよく顔を合わせる間柄だ。争っているわけではないけれど、うちのクラスで一番早く教室に来るのは、僕か彼女かのどちらかなのだ。  僕は顔を力ませて答えた。 「普通だよ」 「いや、普通じゃないでしょ。朝練どうしたの? いつもだったらもう参加している時間帯じゃない」  時計を見ると教室についてから20分も経っていた。驚愕した。エロ本を発見してからまだ数分かと思っていたのだ。そんなに集中していたのか? 「きょ、今日は朝練、休みなんだ」 「嘘。グラウンドにみんないたよ。登校中に見えたから」
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