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教室の戸を開けたら、そこには……。
誰も居ない静寂に支配された教室。
クラスの最前列に位置する、教卓の上に一冊のノートが置いてある。
それ以外は普段の教室となんら変わらない。
そのノートを回収するために、夕暮れに染まる教室までやって来た。
回収しようと近づくにつれ、心臓の鼓動が増していく。
何が書いてあるのか?
はやる気持ちを抑え込み、ノートをめくる。
『今までありがとう』
不自然な程、バラバラの位置に書いてあった文字をつなげるとそう読めた。
それが別れを意味するのだと悟った瞬間、
涙が溢れる。
これは、交換ノート。
俺と彼女の交換ノート。
出会いは、2ヶ月前。
屋上で夕焼けを見つめる俺に声をかけたのが彼女だった。
『そこ。危ないよ?』
その声に振り返る。
『……誰?』
正直、誰でもいい。
これから死ぬんだから。と、そう思っていた。
『野村 沙耶華、2年です。君……死ぬつもり、なの?』
『…………』
『やっぱり、そうなんだね』
自分のことのように苦しそうな表情をする少女。
『悪いか?』
『悪いとは思わない、ただ……死ぬのは苦しいよ?』
『それでもいい、これから先を生きるより死んだほうがマシに決まってる』
『そっか……ねぇ、私と交換ノートしてくれないかな?』
不思議とそれも悪くない。そう思った。
『分かった』
ーー2ヶ月。
俺は沙耶華と交換ノートを続けた。
交換ノートのルールは2つ。
直接は会わない。
ノートは放課後に教卓に置いておく。
今日、俺はノートを取りに来る間……これが最後になる。と感じていた。
だからこそ、ノートに近づくにつれて心臓の鼓動が早まった。
別れの文字を見た俺は、そのノートを抱え逃げるように教室を飛び出した。
息も切れになりながら、無神経な自分を呪った。
彼女との交換ノートは楽しかった。
おかげで、自殺を踏みとどまれた。
思い出すほどに涙が溢れる。
俺が彼女の秘密に気づかなければ……ノートに書かなければ、こうはならなかった。
家に着いてからも、自室に引きこもり三日三晩自分を責めた。
彼女の残した仕掛けに気づいたのは、交換ノートが終わって4日が経過した時だった。
何度も……何度も、繰り返し読み返したノート。
最後になったそのページ。
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