第1章

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 教室の戸を開けたら、そこには一羽の鳥が教卓の上に止まっていた。そこからじっと動かない鳥は、澄んだ目をした、鮮やかで混じり気の無い青を身に纏った鳥だった。 「待ちくたびれたぞ、卒業生諸君」 ―――喋れるのか。 まったく想像していなかったことに対して、頭の中が整理できない。さっきの紳士的な声は、どうやらあの青い鳥から聞こえたらしい。 「恐れることなど無い。何をしている。即座に自分の席に座りなさい」 こちらの心を見透かしたかのように、自分たちを促す鳥に、言われるがまま席に着くしかなかった。 「よし、それでは私から君たちに激励をしようと思う」 全員が席に着いたのを確認すると、青い鳥は自身の事を語り始めた。 「私は毎日、教室の隅々を飛んでいた事に君たちは気付かなかったろう。私は日頃から君たちを見てきた。だがそれも今日で最後になってしまう。実に寂しくてたまらない。私はこの教室を出て君たちの幸せを作ることができなくなってしまうからだ」 慣れたように、舞台役者の様に、身振り手振りを加えながら更に続けた。 「君たちが落ち込んでいる時、悲しい時も、そっと寄り添ってきた。これから君たちは、大学や社会に出て、多くの困難に出会うだろう。その時、思い出してほしい」 大きかった動きを止め、教卓の真ん中から真っ直ぐ皆を見据えて言い放った。 「どんな空間でも、私たちは飛んでいる」 瞬間的に、その言葉がどんな意味を持つか考えられなかったが、彼は補ってくれた。 「進んだ場所で落ち込んでも、私の仲間が飛んでいる。嫌になって逃げた先でも、私の仲間が飛んでいる。私の役目は終わりだが、仲間たちがきっと幸せの手助けしてくれる」 唐突だったが、彼の雄弁に少しだけ納得することができた。 「言いたいことは、それだけだ。それでは、さらばだ」 そう言い残すと青い鳥は、羽ばたき、教室の中に消えていった。  彼が去って間もなく、先生が教室に入ってきた。一人の生徒が青い鳥の話を先生に聞かせた。すると先生は、 「ああ、あの青い鳥か。毎年卒業式に姿を見せて、良い事言っていくんだよな。先生より良い事言って、こっちは立場が無くなっちゃうよ」 困りながらも笑顔で話す先生を見て、僕たちは一緒に笑い合った。
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