トラワレ

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 そんな愛人の中で、一番執念深い女が居た。おそらくその女が一番長く付き合った愛人なのであろう。その愛人には、清子も美里もいろんな嫌がらせをされた。無言電話はもちろん、美里が高校生の頃、差出人不明の手紙が美里に届いた。「あなたのお父さんには愛人が居て、しかも子供までいる。」という内容であった。その手紙を清子に見せると、清子は怒り心頭だった。子供にまでこんな嫌がらせをするなんてと怒りを露にした。 「子供まで居るなんて、嘘よ。だって、あれは自分の離婚した夫の連れ子だもの。」 清子は呆れた。すぐにその手紙を和成に見せたのだろう。さすがの和成も、度がすぎた嫌がらせに嫌気が差したのか、それから程なくして、その女とは別れたらしい。美里は一度、その女と出会ったことがある。遠くから、父親の様子をうかがっていた、あの髪の長い、汚らしい女がそうなのだろう。痩せ型ではあるが、色黒の醜い女だった。 「まあ、お骨を持ち出そうと、関係ないけどね。」 清子が呆れたように吐き出した。 「そうね。お骨なんて、どうするんだろうね。」 美里も同意した。 こんなふうに思われても和成は仕方の無い男だったのだ。  その頃、愛人の百合子は、スーパーの袋に詰めた物を小さな桐の箱に収めていた。 「やったわ。やってやった。あの女は空のお墓でも拝めばいいのよ。」 一人、1Kの小さなアパートで高笑いしていた。 和成は前夫と離婚後に付き合ったただ一人の男だった。 看護士をしていた百合子が勤める病院に入院してきたのが和成だった。 まだ当時幼い子供を抱えていた百合子には和成が心の拠り所だった。 和成は幼い息子も可愛がってくれたし、愛人の百合子の元に入り浸りだった。百合子はその頃、優越感に浸っていた。 本妻の清子は、目鼻立ちのはっきりした女だった。百合子には無い物を持ち、しかも狭いアパートに暮らす百合子とは違い、和成が建てた持ち家に住んでいた。 百合子には、それが悔しくて仕方なかったのだ。百合子は、徹底的に和成の家族に嫌がらせをした。 ただし、息子の和利は溺愛していたので、和利に対しては和成の逆鱗に触れてはならないので嫌がらせはしなかった。いつかは、家族を追い出して、自分が本妻に納まることを信じて止まなかった。
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