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しかし、百合子はやりすぎた。娘である、美里に嫌がらせの手紙を出したことだ。同じ自分の子供であることに間違いない。しかも、その頃には百合子は年を取り、すでに和成の心は百合子から離れており、同時進行で別の女と付き合っていたことを百合子は知らない。潮時だったのだ。
それから数年が経ち、和成が亡くなったと知らされた。百合子のショックは大きかった。もちろん、葬儀にも参列した。棺の中の和成は、一回り小さくなったような気がした。元々小柄な男である。棺の中の和成の頭を撫でた。なんで、先に逝っちゃったの?百合子は不思議と涙は出なかった。百合子は毎年、和成のお墓参りは欠かさなかった。
彼岸とお盆、お正月には、きちんとお墓参りをした。清子と鉢合わせしないように、細心の注意を払っての墓参り。百合子の中にふつふつとまた怒りの種が燃え盛った。なんで私が、こそこそとしなければならないの?私はあなたが死んでも愛人のままじゃないの。その怒りが百合子を動かした。納骨堂の石は、年老いた百合子には重かった。夜陰に紛れてお骨を取り出したものの、力が弱く石をきちんと元の位置に戻せなかったのだ。
お骨を盗んだ日に、百合子の枕元に和成が立った。
「和成さん!」
百合子は涙した。やっぱり私の元に帰ってきてくれたのね。そう思ったが、和成はどこか悲しそうな表情をしている。
「カエ・・・シテ」
かすかに声が聞こえた。和成の声だ。
「かえして?どういうこと?」
百合子が問うと、さらに悲しそうな顔をして
「カエ・・シテ」
と繰り返す。そう言うと、和成は玄関に向かい、ドアノブをガチャガチャと回した。
「カエリタイ」
今度ははっきりと聞こえた。「帰りたい」
その言葉に百合子は逆上した。
「何よ!ここがあなたの家よ?帰りたいってなによ!あの女のところに帰るのね?そうは行かないんだから!」
百合子が叫ぶと、隣から壁を叩く音がして、ウルセエ、何時だと思ってるんだ、クソババア!と怒鳴る声がした。
すると、和成の姿がすーっと消えた。待って、和成さん、行かないで。あの女の元に行かないで!
何のためにお骨まで盗んできたと思ってるの?
死んでもまだなお、私を愛人扱いするのね。そうなの、それじゃあ仕方ないわ。
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