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七回忌の法要は、家族だけで密かに行われている。
七回忌ともなると、もう家族だけでいいだろうと、家の仏壇の前でお坊さんにお経だけ読んでもらっているのだ。
お経の最中に、玄関のチャイムが鳴らされた。こんな時に、誰だろう。清子は仕方なく、玄関に向かった。
「はーい、どなた?」
引き戸のガラス戸に人影は見えるのだが、返事はない。
清子は、玄関のドアのロックを外し、引き戸を開けた。
「キャー!」
玄関から叫び声がした。和利と美里はその叫び声が清子のものだとすぐに気付き、玄関へ走った。
玄関に血溜まりができていて、そこには醜い老婆が包丁を持って立っていた。
すぐに和利が飛び掛り、老婆を取り押さえた。
「おかあさん、おかあさん!」美里は半狂乱になった。
清子の腕からおびただしい血が流れている。事態を見て驚いたお坊さんが、携帯で慌てて110番を押す。
「あんたさえいなければ!あんたさえいなければ!和成さんはああああああああ!」
取り押さえられてもなお、錯乱状態の老婆は叫び続けた。
さいわい清子は大事には至らなかった。手を十数針縫う怪我をしたが、清子にとっては一生トラウマとなるだろう。
「本当に執念深い女ね。」
清子達には、女の心理がまったく理解できなかった。
百合子には傷害で実刑判決が出ており、現在、医療刑務所に収容されている。心神耗弱が認められての判決だった。
「ウフフ、帰ろうったって、そうは行かないわよ。あなたは一生私と暮らすの。」
独房からクスクス笑いが漏れてくる。
「あの独房の婆さん、マジ、気持ち悪いんだけど。」
看護士同士がひそひそと話す。
カエシテ カエシテ
馬鹿ね、帰れるわけないじゃない。
だって、あなたは私の中に居るんだもの。
百合子は、口にした骨の味を思い出し優越感に酔いしれていた。
アナタハ ワタシノモノ
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