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ぼんやりと、そんなことを思った。殺した時点で、相手に対する情熱は燃え尽きて終わるのだろうか?  ――いや、違う。 とても、そうは思えなかった。たとえるなら、大事にしていたおもちゃを壊してしまったら、どんな子供でも新しいおもちゃがほしくなるはずだ。子供にたとえるのは少々場違いかも知れないが、犯人もれっきとした人間ならば『被害者』というおもちゃを殺してしまったら、楽しみが無くなってしまう。そうなった場合、犯人が次に取る行動とは……。 「もう一つ、奇妙な話があるんだ」 裏木が言った拍子に、暁彦は思考の沼から意識を引き上げた。何か大切な事に気づけそうな気はしたが、とりあえず裏木の話に耳を傾ける。 「犯行現場となった体育館には、被害者の血だまりから出口へと続く足跡があった。正確には靴跡なんだが」 「それがどうしたんだ?」 裏木はここぞとばかりに得意になって鼻の下をさすりながら告げる。 「第一発見者の睦月先生は『体育館に入った時、足跡は無かった』と言っている」 一瞬、時間が止まったかのような錯覚と共に、明らかな違和感が見る見うるちに暁彦の脳裏を支配していった。 「犯人がまだ現場にいた、ということか?」 そんなはずは無い。もしそれなら、叶絵は姿を見ているはずだ。しかも、血の足跡が付くと言うことは、遺体にかなり近い位置にいたことになる。彼女に姿を見られること無く、その場に潜み、堂々と血だまりから歩き出して、出口から去って行く。 そんなことが可能だと……? 「この事件、気になるよなぁ?」 裏木の問いに、暁彦は首を縦に振る以外の反応ができなかった。 「そのストーカー殺人犯が警察の管轄じゃなく、俺たちの標的だっていう見込みはあるのか?」 「それをこれから突き止めるんだよ。幸か不幸か、警察はこの事件「お宮」にするつもりだしな。まあ見てろ」 言うが早くか、裏木はファイルをまとめて立ち上がった。
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