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暁彦には五つ離れた辰彦という兄がいた。 小さい頃から、兄の背中ばかり追いかけていたのをよく覚えている。 面倒見の良い兄で、いつも暁彦を気遣い、側にいてくれた。 辰彦は警察官を志し、暁彦が十四歳になる年にS市を離れていった。 岩美市に配属されてからは、よく遊びに来た。 いつしか、辰彦はこの町で知り合った恋人と同棲するようになり、彼女は暁彦の面倒もよく見てくれた。 刑事に昇格してからは、仕事が格段に忙しくなり、共に過ごす時間は減っていったが、よく連絡を取っていた。 暁彦が大学二年の時、兄から電話で結婚の報告をされた。 素直に嬉しかった。 暁彦は大学の講義を休み、岩美市へと向かった。 兄と婚約者へのプレゼントを買うために大きなショッピングモールへいき、奮発してプレゼントと花を買った。 そうのうち、二人の間に子供が出来たら自分はおじさんになる。そんなことすら考えていたと思う。 二人の関係がうらやましかった。自分にもいつしか、婚約者のような素敵な相手が出来るのか、いや、彼女ほどの人を求めては贅沢だ。兄だからこそ、彼女と釣り合うのだから。 だが結局、暁彦が叔父となる日は来なかった。 その日、モールは何者かによって爆破され、大勢の犠牲を出した。 後のニュースで知ったことだったが、爆弾テロ事件だった。 兄は爆発に巻き込まれ、恋人と共にこの世を去った。 今から二年前のことだ。 あの日を境に、暁彦の人生は変わってしまった。自分の心の中で、何かが音を立てて崩れたのだ。 出口のない迷宮に迷い込み、その運命に翻弄されている。まるで、見えない無数の手に絡め取られいるかのように。 それでもまだ、出口を探し続けて……。
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