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まるで地獄だった。
逃げ惑う人々の悲鳴と叫び声。逃げられぬ人々の嘆くような声。
地が裂け、天が割れるかのような轟音の中、彼は愛する女性を胸に抱いていた。
美しかったその髪は焼け焦げ、白い肌は血の色に染まってしまった。
生前の面影はすっかりと消え、もはや血肉を飛び散らせた肉塊と化している愛する女性を胸に、彼はただ涙を流し、悲しみに震えていた。
辺りを見渡せば、瓦礫に埋もれた死体、砕けたガラスで全身を切り刻まれた死体、爆発に巻き込まれ、身体の半分を失った死体。
どこもかしこも、人の亡骸で溢れていた。
パニックを起こし我先に外へ出ようとする人々もいれば、二度と笑わなくなった家族に寄り添う者。寸断された自身の身体を瓦礫の中から探す者もいた。
そんな地獄の中で、彼の周りを数人が取り囲む。
彼はゆっくりとを顔を上げ、怒りとも悲しみとも判断しがたい表情を浮かべていた。
周りを囲む一人一人をゆっくりと見回し、それから声の限りに叫んだ。
なんと叫んだのかはわからない。だが、一つ確かなことは、全員へ向けられた呪詛の言葉のように、その身を震え上がらせる程の憎しみに満ちた、おぞましい声色だったことだ。
そして次の瞬間、彼を中心とした一角は再び爆発にのまれ、すべてが瓦礫の中へと埋もれていった。
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