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一日の終わりを告げるチャイムが校内に鳴り響き、ホームルームを終えた生徒たちが一斉に教室からあふれ出してきた。 「御堂せんせー、さようならー」 「さようなら」 口々に挨拶を交わしていく生徒たちの波をぬって歩き、御堂暁彦は職員室前の廊下へとさしかかる。中へ入ろうと扉に手をかけたところで突然扉が開かれ、飛び出してきた人物と危うく激突しそうになる。 「あ……すみません、御堂先生、大丈夫ですか? 私ったら慌てていて……」 「いえ大丈夫です。えっと……」 「睦月です。睦月叶絵。そろそろ覚えてくださいね。この学校に赴任してからもう二週間でしょう?」 そう言って困ったように息をついた叶絵は三年目になるこの学校の教諭であり、暁彦の先輩に当たる。彼が赴任してから、同年代ということもあってか、何かと気にかけてくれていた。いつも忙しなく動いており、落ち着きが無いように見られがち見られがちだが、生徒からの信頼は厚く、熱心な指導ぶりは父母からも一目置かれているらしい。 いついかなる時も絶やさない屈託の無い笑顔は少々、眩しいくらいだ。 「すみません、どうも人の名前を覚えるのは苦手でして」 「何言ってるんですか御堂先生。歴史の担当なんだから、人の名前なんてたくさん覚えているじゃ無いですか」 確かにそうだ。思いもよらぬところでうならされてしまい、暁彦は思わず苦笑する。 全く、と笑いながら言った叶絵から苦し紛れに視線をそらすと、職員室の中が少々ざわついている事に気づいた。 「何か、あったんですか」 「ええ。実は刑事さんが来てるんです」 叶絵は少々物々しい口調で言うと、職員室の中へと視線を投じた。 「刑事……」 呟きながら彼女の視線の先を追うと、スーツ姿に無精ひげを生やした痩身の男が手帳を片手に教師達へと聞き込みをしていた。 「何か、事件でもあったんですか?」 「……そうですよね、御堂先生は知らないんでしたね」 突如、表情を暗く濁らせた叶絵は、どこか思い詰めるみたいに視線を伏せた。 「あんなことがあったって、知らないんですもんね……」 「あんなこと……」 まるで、知らなくて幸せだとでも言いたげな口調だった。 「この学校の教師が亡くなったんです。宇川先生といって、女性の教師でした」
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