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「仲がよろしかったんですか?」 暁彦としては、何の気なしに問いかけた一言だった。しかしそれは、彼女にとって重く、痛烈なダメージを与える一言であったらしい。表情を険しくさせた。 いくばくかの沈黙の後、叶絵は思い出すように笑う。 「同期で一番の仲良しでした。よく一緒にご飯食べに行ったりして、あの日も最後に会ったのは私で……」 言葉が途中で途切れ、感極まってしまったのか、その瞳に大粒の涙を浮かべていた。 「睦月先生……」 暁彦は無意識のうちに周囲を確認していた。幸い、生徒も教師も周りには居ない。あらぬ誤解を誘うことはなさそうだ。いや、しかしそれ以前に、なぜ彼女はここまで思い詰めているのだろうか。そっちの方に思考を傾けようとした時だった。 「おや睦月先生、どうされたんですか?」 職員室から出てきた一人の男性教師は、うつむく叶絵の目に涙が浮かんでいるのを見て、あからさまに動揺を示す。そしてすぐさま暁彦へと視線を転じ、 「まさか、この非常勤の男に何か言われたんですか?」 親の敵でも見るかのような眼差しを向けてくる。確かに暁彦は欠員補充の非常勤教師だが、だからといって叶絵を泣かせる理由など何処にも無い。突如として向けられた濡れ衣の刃に、思わず戸惑ってしまう。 「磯田先生、大丈夫ですから気にしないでください」 「いや、しかしですね、僕としましては睦月先生が涙を流している以上、放っておくワケにはいかないと言いますか……」 何故か赤面しながら、磯田食い下がった。 「本当に、何でもありませんから、放っておいてください」 叶絵はそんな磯田の心情になど気づかぬそぶりで、ばっさりとはねのけるように告げた。磯田はあからさまに肩を落とし、それからどういうわけか暁彦へと恨めしそうな視線を向けてくる。 またしても居心地の悪さを感じ、視線を職員室へと向ける。その拍子に、教頭となにやら話をしている刑事と視線が交わった。 「御堂先生……?」  叶絵に声をかけられ、暁彦はハッとして振り返る。 「どうされたんですか、そんなに怖い顔をして?」 「いいえ、別になんでも。すみませんが、失礼します」 「あ、御堂先生……」 「君、待ちなさい、失礼なことを言ったのなら睦月先生に謝りたまえ」 呼び止めようとする叶絵と、見当違いにがなる磯田を無視して、暁彦はそそくさとその場を後にした。
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